【修理事例】電圧誤接続で故障した充電器の診断と修理
はじめに
今回は、接続先を間違えて故障してしまった充電器の修理事例をご紹介します。このような電圧トラブルは現場で起こりがちなミスですが、適切な診断手順を踏めば修理可能なケースもあります。
故障の経緯
まず、現場にいた方への聴取で判明した状況は以下の通りです。
- 100V電源、200V出力の昇圧型変圧器を200V電源に誤接続
- 接続直後に煙が発生し、動作停止
- 変圧器本体は故障していない
初期診断での推測
使用した変圧器を持ち上げると、体積の割に異常に重いという特徴から、以下のように推測されました。
変圧機能をトランスに頼った機種で、200Vの入力に対し400V出力を行った可能性が高い。煙が出たことから、ヒューズが動作したのではなく、どこかの部品が破裂しているか焦げていると予想される。
調査・診断プロセス
1. 外観および臭気の確認
分解して内部を確認しましたが、見た目で気になる損傷はありませんでした。また、電子部品が故障した際の独特の匂いも残っていません。故障箇所をピンポイントで特定するのは難しそうです。

▲ 充電器内部の基板構造
幸い主要なユニットは4つと点数が少なく、また2/4点はメーカーへお願いしないとならないであろう部品であったことから、これが故障していた場合は諦めてメーカー修理をお願いする方針としました。
2. 短絡確認
まず電源スイッチを入れた状態で電源プラグの短絡を確認しました。短絡していないことから、一旦電源に接続してみても大きな問題にはなさそうです。

▲ テスターでの短絡確認
接続して電源を入れてみると消費電流0.0A。過電流が流れることはありませんでしたが、動作もしません。

▲ 消費電流0.0Aを表示する変圧器
3. 回路用電源の確認
制御基板(青色)のLEDや液晶が全く光りませんので、電源装置(金属ケース)の出力端子を調べてみます。
- 通常時: 12V出力
- 実測値: 0V
電源装置は交換になります。ここが壊れていると、制御基板も壊れている可能性があります。

▲ 電源装置の出力チェック
4. 外部電源による動作確認
壊れた電源装置の代わりに、安定化電源で電源を供給してみます。
動きました。

▲ 安定化電源からの電力供給によりディスプレイが点灯
充電機能の確認
充電用電源のチェック
次に充電用電源が出力を行っているか確認します。
- 通常時: 24V出力
- 実測値: 0V

▲ 充電用電源の出力電圧測定(電圧の出力なし)
ただここは回路用基板から信号線が伸びていることもあり、条件が揃わないと出力されない可能性もあります。条件を整えてみることにします。

▲ 制御基板から充電用電源へ信号線が繋がっている
充電器の動作原理
一般的な充電器の挙動としては、充電口に接続されたバッテリーの電圧を見て、次のように問題ないことが確認できてから充電を開始します。
- バッテリーが接続されているか
→ 接続先に電圧が存在するか - 正しいバッテリーが接続されたか
→ 接続されているバッテリーの電圧が規定内に収まっているか
模擬負荷による確認
実際に装置の充電口へ接続して充電してみるのが手っ取り早いですが、充電器よりも充電対象の方が高価なこともあり、代替電源を充電口に接続して挙動を見ます。
安定化電源の出力電圧をバッテリーの定格である24Vに合わせ、充電器の充電口に印加します。

▲ 安定化電源による模擬バッテリー接続
液晶の方で電圧が認識され、充電が始まりました。

▲ 液晶に「正在充電」と表示され、充電動作を開始
充電器の出力電圧を見ても一定でノイズなどの乱れがないため、正常と診断しました。

▲ オシロスコープで出力電圧の乱れがないか確認
修理作業
部品交換
今回は回路電源のみ故障だったので、同等の回路電源を調達して交換しました。
充電対象である実機へ接続しても正常に出来ることを確認できたため、
カバーを再固定して修理完了です。

▲実機と組み合わせて動作を確認

▲ 回路電源交換後、カバーを固定して修理完了
まとめ
今回の修理事例では、電圧誤接続により回路用電源が故障しましたが、幸いにも他の回路には影響がありませんでした。
修理のポイント
- ✓ 現場での聴取による故障原因の推測
- ✓ 段階的な診断による故障箇所の特定
- ✓ 外部電源を使った安全な動作確認
- ✓ 模擬負荷による充電機能のテスト
- ✓ オシロスコープによる波形品質の確認
- ✓ 実機での最終確認
予防策
このようなトラブルを防ぐためには、以下の対策が有効です。
- 電源接続前の電圧確認の徹底
- コネクタや端子への明確なラベリング
- 作業手順書の整備と遵守
- ダブルチェック体制の構築
- 変圧器の仕様表示を見やすい位置に配置
適切な診断手順と安全確認を行えば、このような故障でも修理可能なケースは多くあります。今回のように段階的に確認を進めることで、高価な部品の損傷を避けつつ、効率的に修理を完了させることができました。
特に今回のケースでは、外部電源を使った診断が功を奏し、充電回路が正常であることを早期に確認できたため、交換部品を最小限に抑えることができました。
皆様の修理作業の参考になれば幸いです。
